転職しました

この7月をもって、5年間勤めた銀行を退職し、コンサルティングファームに転職しました。

私的なことではありますが、この場をお借りして、個人的な思いを整理しておきたいと思います。

長文になりますので、興味のある方のみ、お時間のあるときに読み流していただければ幸いです。


目次
これまでの経歴
ファーストキャリアとしての日系の銀行
配属と昇進
今回の転職について


これまでの経歴

  • 都内の営業店での法人融資業務(1年6ヶ月)
  • 本部でのリスク管理業務(1年7ヶ月)
  • 事務センターでの外国為替業務(2年2ヶ月)

入社後、フロント・バック・ミドルと、短期間で3つのセクションに配属になりました。

同期の多くは各地の支店で法人営業として揉まれており、3年が異動のサイクルである銀行員としては珍しいキャリアかと思われます。


銀行業務の全体を学ばせようという意図のもとのローテーションとはいえ、自らの経験を通して、総合職が文字通りジェネラリストであることを痛感しました。

今回の転職では、マーケットの好況もあり、ポテンシャルを期待してもらえる立場ではあるものの、専門性に乏しいと判断され、意に沿わない結果になることも多くありました。


それなりに時間はかかりましたが、結果的に、金融に特化したコンサルティングファームからオファーを得ることができました。

今後は、これまでの経験を携え、銀行をはじめとする金融機関向けのコンサルに専念していきたいと考えております。


ファーストキャリアとしての日系の銀行

新卒で銀行に入ってよかったのは、金融の専門知識はもちろん、社会人としての基礎をしっかり築けたところです。

日本の企業は、若手の社員に非常に優しく、給料を払いながらゆっくり育ててくれるカルチャーを持っております。

ことに新入社員に対しては、1から10まで時間をかけて仕事を教えてくれ、座学の研修でみっちりと職業教育を受けさせてくれる風土があります。


総合職ということで、年次の低いうちは雑用に近い業務も多くありましたし、今となっては笑い話ではありますが、身だしなみについて注意されるようなこともありました。

同期には経営学部や商学部の出身が多く、簿記の資格など当たり前のように持っている中で、ビジネスのビの字もない状態からゆっくりと銀行業務の全体を学ばせていただいたという実感があります。


営業店時代には、お客様との窓口である預金課に3ヶ月間お世話になり、口座開設をはじめとする接客と事務の経験を積むことができました。

1年強在籍した融資課では、決算書の読み方から手ほどきを受け、貸出金の社内稟議と取引先に対する信用格付を中核とする法人融資の何たるかを学ばせてもらいました。

直近の部署である事務センタ―では、輸出金融を中心に、外国為替の業務をこなしました。


振りかえれば銀行の三大業務をどれも担当しており、フォーマルな金融機関でこのあたりの経験を積んだことが、元々の関心である開発途上国における金融について考えるうえでも土台となっております。

予定をかなりオーバーし、気づけば5年も経ってしまいましたが、社会人としての基礎はもちろん、金融の知識を確立することができたという点で前職の銀行には感謝しております。


配属と昇進

今回、転職をする決心をした大きな理由は次のふたつです。

  • 会社を離れても通用する、個人のポータブルな職能を身につけたかった
  • ジェネラリストではなく、特定の分野の専門家になりたかった

一つ目の理由に軽く触れておくと、金融は典型的な装置産業であり、金融機関は定型的な事務を日々大量に処理するいわば巨大な事務センタ―であるため、後述するような特殊な職種でないかぎり、組織を離れたとしてもやっていけるようなスキルは育ちづらいです。

ここでは、主に二つ目の理由について詳述し、銀行という職場の内幕を記しておきたいと思います。就活生の方などに参考にしていただければ幸いです。


銀行では、グループ会社の業務を含めれば、金融にかかわるあらゆる仕事をすることができます。

プロジェクトファイナンスや大企業向けのシンジケートローン証券業務や商品組成、企業再生や債権回収、プライベートエクイティベンチャーキャピタル、経営企画や海外勤務など、花形の業務にも携わることが期待できます。配属さえ思い通りになれば。

商社やメーカーや官庁など他の業界でもそうかと思いますが、配属が必ずしも希望通りにならず、自分の思い描くキャリアを築くのが難しいことが日系の銀行で働く最大の短所だと考えております。


例外はあるものの、希望通りの部署に行けたとしても、3年後には全く関係のないところへ異動になると考えるのが現実的です。

全国に拠点があるため、辞令ひとつで有無をいわさず、次週から転居を伴う転勤になる可能性があります。

会社への忠誠心を試すためなのか、自宅を購入した直後に、家族を残し単身赴任になることもあります。


市場系や運用系など、専門を極められるポジションも多少はありますが、大多数の総合職の社員は、将来的には一国一城の主である支店長に就任するジェネラリストとしての活躍を期待されています。

支店長とは、伝統的な銀行の最大かつ最多の収益部門として各地に展開する営業店における最終意思決定者であり、いかなる事態が発生したとしても、状況に即した適切な判断を行うことが求められるポジションです。

選り好みをせず、どんな業務でもコンスタントに成果を上げられる何でも屋さんを育成しつつ、多数の総合職をふるいにかけ、将来の支店長やその先の役員層を選別していくための最も効率的な手段が、約3年おきのジョブローテーションと継続的な人事評価なのでしょう*1

このような事情のため、日系の銀行では、どこか一箇所で腰を落ち着けて専門性を磨くことは難しいです。


総合職の社員はとにかく数が多いので、人事運営は年次を重視する平等主義を基本としています。

そのため、どの会社もそうなのかもしれませんが、ある社員が入社前の人生で身につけた特性よりも、会社に対する貢献の度合いで評価をする風土があります。


ここでいう会社への貢献とは、男性の総合職の場合、第一に法人営業で成果を出せることであり、数字で自らの業績をしめせることです。

今期は中小企業にいくら貸せたのか、どんな商品を売れたのか、銀行にとっての収益はいくらだったのかという成果こそが、その方が次にどこに栄転を果たすのかを決める材料になります。

融資を受けるにせよ投資信託を買うにせよ、金融商品というものは顧客からすればどこから購入しても大差がないため、営業のうえでは、商品の特長よりセールスマンの人物面に重きが置かれることには注意が必要かと思われます。


語学や学生時代の専攻など、その他の特性はあくまで副次的なものに過ぎません。

たとえば銀行として中国ビジネスを強化しているなか、中国語に堪能な若手社員がいたとしても、その事実だけをもってその方が香港や上海に派遣されることはあまり期待できません。

統計学や数学は、クオンツマーケティングや商品開発など一部の部署で非常に重宝されるバックグラウンドですが、総合職として入社し営業店に配属になった場合、役に立つことはほとんどありません。

このような長所を伸ばすにしても、銀行業務の基本の基本である伝統的な支店業務をまずは数ヶ年経験し、他の方以上の成果を出してからという考えは根強くあります。


さらに、配属は本人の実績や希望だけでは決まりません。

サラリーマンなので、個人的な能力は言うまでもなく、上司に買ってもらったり、かわいがられたりする才覚が不可欠です。

部下は常に上司に見られており、職場での行いはもちろん、休日の過ごし方や家庭の事情など個人的な事柄、さらには宴席での振舞いさえ含め、一挙一足が観察と評価の対象となります。

営業を中心に一定の成果をあげながら上からの覚えもめでたいと、何年か後には、希望する業務への就任や、会社からの期待度が高いことの証であるいい部署への異動が期待できるというわけです。

とはいえ、たとえ評価が高かったとしても、人事的な配慮や様々な事情から、あえて本人の希望とは異なる部署へ配属されることもあるのが難しいところです。


頑張っていればいつか自分のやりたい業務ができるという期待を淡く抱き、好き嫌いを持たず、与えられた目の前の仕事に全力で打ち込み、定期的な配置転換をどこか楽しめるような素質をお持ちの方が、このような文化にフィットすることが多いように感じます。

個人的な希望やビジョンなどは真っ先に排除されるべきものであり、愛社心というように、ひとつひとつの歯車の総体である組織の大きさに誇りを抱いたり、会社の業績の改善を我がこととして喜べるようなメンタリティも必要になってきます。

ほとんどの方は一定の年齢を区切りに外に出ることになりますが、終身雇用であるため、このような環境に抵抗が少なければ、定年まで継続して会社に面倒をみてもらえる安定した職場ではあります。


学生の頃からよくよく承知していたことではありますが、日系銀行の総合職は性に合わず、可能なうちに転身を図ることにいたしました。


今回の転職について

ワークライフバランスなどと声高に言うつもりはありませんが、生きるうえで読んだり考えたりする時間が不可欠ですので、ある程度プライベートに余裕がもてる職業を希望しておりました。

このため、極端な激務を避け、銀行で培った金融のバックグラウンドを活かせる職場を探した結果、コンサルティングファームにご縁がありました。


コンサルとしての業務分野に関しては、経歴からも個人的な資質からも、金融機関の間接的な部門に対するサポートに取り組みたいと考えておりました。

リスクやコンプライアンスといった分野は、後ろ向きであり地味ではありますが、海外の大手銀行の経営が巨額の課徴金によって揺らいでいるとおり、現代の金融機関にとって避けて通ることのできない事柄です。

前職でも、歴代の上司からフロントよりもバックオフィスへの適性を見出していただいていた経緯があり、ディールよりも内部統制などに対するコンサルティングに一貫して興味がありました。

今後はとりわけ、商業銀行はもちろんのこと、国際金融機関やMFIにとっても重要な課題であるGRC分野を専門としていきたいと考えております。


コンサルの経験はなく0からのスタートではあるため、PMOやITなどわからないことだらけであり、当面は週末も学習にあてる意気込みで臨むつもりです。

他のファームのレポートを読むのも勉強になりますので、このままのスタイルで、学んだことをブログで共有していきたいと思います。引き続いてお読みいただければ幸いです。

*1:この話にさらに興味のある方は、『銀行員の転職力』をお読みいただくといいと思います。