銀行のde-riskingと金融包摂の後退

ここ1〜2年、銀行のde-riskingと呼ばれる行動が途上国における金融包摂(financial inclusion)を停滞させていることが大きな問題として認識されてきております。

専門的な内容ではありますが、以下の記事を参考に、噛み砕いて解説させていただきたいと思います*1


Poor correspondents | The Economist
http://www.economist.com/news/finance-and-economics/21604183-big-banks-are-cutting-customers-and-retreating-markets-fear

De-Risking Is De-linking Small States from Global Finance | Otaviano Canuto
http://www.huffingtonpost.com/otaviano-canuto/de-risking-is-de-linking_b_8357342.html

‘De-risking’ diaspora remittances | The Commonwealth
http://thecommonwealth.org/media/press-release/‘de-risking’-diaspora-remittances


de-riskingとは、銀行によるリスク回避を意味します。

巨額の課徴金などコンプライアンス上の規制強化を嫌気し、特にハイリスクな国や地域において、一部のグローバル銀行が、現地の銀行に対する金融サービス提供(correspondent banking)から撤退する動きがみられます。

グローバル銀行のこうしたリスク回避により、撤退の対象となった国や地域で必要不可欠な国際金融機能が利用できなくなり、金融包摂が後退してしまう効果が生まれているようです。


de-riskingの結果、現地の中小企業は、輸出入など銀行が提供する貿易金融を利用しづらくなり、ビジネスに大きな影響を及ぼしています。

NGOやチャリティ組織は、必要なお金が滞ることで活動に支障が出ています。国境を行き交う移民にとっても、送金コストが増えるなど負担が増え、送金が占める割合が大きい地域では、経済全体にマイナスの効果が生じているようです。

グローバルな銀行に対する規制強化の副次的な効果として、ハイリスクな国や地域における末端の個人や中小企業が金融サービスから排斥されてしまうことが、世界的な金融包摂の流れに逆行する金融排除(financial exclusion)として問題視されています。


以下、ひとりの実務者として感想を記しておきます。

ファイナンシャルインクルージョンの拡大という高邁な理念は、ハイレベルな目標としてはとても気高いのですが、現場で業務に当たる金融機関の利害とは必ずしも一致していません。

「儲からない」「リスクが高すぎる」という単純な理由で、営業基盤が確立されているわけでもなく、様々なリスクのある開発途上国で取引を拡大すること(bancarization)に先進国の多くの銀行はあまり熱心でないのが実情と思います。

金融包摂といったところで、実務を担う銀行員にはほとんど響かないのも、日常的な業務との大きな隔たりが原因でしょうか*2


American Bankerの記事によると、J.P. Morganのディレクターの方が次のように述べたそうです。「我々は、金融包摂と規制検査回避の間のピンポンの試合にいるようなもので、そこでは我々はボールだ」

新たな技術やベンチャー企業によって革新的な金融サービスが局地的に生まれていることには一定の期待を持てますが、民間主導でファイナンシャルインクルージョンを大きく広げていくためには、別種のインセンティブが必要と思われます。

de-riskingという現象は、金融機関に対する厳格な規制の意図せざる作用という観点から非常に興味深く、継続してウォッチしていきたいと考えております。

*1:ご参考までに、the Bankerのウェブサイトにて、correspondent bankingを詳しく取り上げた動画を見ることができます。http://www.thebanker.com/video/v/4670655125001/chapter-1-of-4-a-new-era-for-correspondent-banking-the-current-landscape

*2:個人的にも、営業店の宴会でマイクロファイナンスについて話したところ、「収益にならない」と一蹴されてしまった思い出があります。