『仮想通貨革命――ビットコインは始まりにすぎない』

今年の6月に出版された日本語の書籍をご紹介いたします。


『仮想通貨革命――ビットコインは始まりにすぎない』


経済学者の野口悠紀雄氏がビットコインを中心とする仮想通貨を論ずるもので、以前紹介させていただいたダイヤモンド・オンラインの記事*1をもとにした本です。

ビットコインの仕組みを解説するにとどまらず、これまでの金融制度や経済史を踏まえながら、その社会全体への影響が大胆に予測されています。


登場する様々な事例のなかでも、「マイクロペイメントが引き起こす社会革命」(p. 26)は、開発途上国・先進国の両方で重大な意義をもつものです。

ビットコインは、これまでオンラインの少額決済の敷居となっていた高い手数料と煩雑さを解消しうるものであり、今後は様々なコンテンツが提供される形態がよりフレキシブルなものになっていくことが予想されます。


音楽が楽曲単位でダウンロード販売されるようになったように、料理のレシピや百科事典や学術論文集のような内容では、書籍の形態にこだわる必要は必ずしもありません。

本の例でいえば、項目や章ごとに「ばら売り」されたPDFファイルや電子書籍のファイルに数十円・数百円単位の料金を請求するようなことが普通になるのかもしれません。

貧困層が顧客でも融資をこととする事業でもありませんが、こうして小規模かつ大量になされるようになる決済を「マイクロファイナンス」と呼び、経済に対するインパクトをより広範にとらえていくことも可能でしょうか。


ブランチレスバンキングと国際送金」でみたように、現状、銀行を経由する国際送金も様々な問題をはらんでいます。

 国際送金にはさまざまなコストがあり、複雑でわかりにくい。とくに問題なのは、為替レートに関連する部分が不透明な形で送金コストに忍び込んでいることだ。しかも、国際送金業務は、政府の規制により、銀行がほぼ独占している。だから、そのコストはかなり高い。そして、これが正当なものかどうかを判別しにくい。(p. 161)


輸出入や送金/被送金といった銀行の外国為替業務は、いまだ紙の帳票を大量に使ってなされる煩雑なものです。参照すべき内部規定や銀行間の規則も多く、高い事務知識が要求されるため、取引にかかる手数料も決して安いとはいえません。

海外送金を利用されたことがあれば、支店の窓口でのサービスに対し不便さや割高感を感じたことがある方は多いと思います。技術の導入によってこのような問題が解決されることは、抵抗勢力となるであろう銀行はともかく、ユーザーにとっては大いに歓迎すべきものといえるでしょう。

 国際送金とウェブ決済で大きな変化が生じるだろうことは、多くの人が予測する。それにとどまらず、銀行の決済業務の大半が消滅し、ビットコインとその周辺に生まれるサービスに移行した世界は、考えうるものだ。証券会社の取次や仲介業務がなくなり、分散市場で代替されるようになる可能性もある。
 したがって、金融機関が最強の抵抗勢力になるだろう。ケニアでは銀行システムが発達していなかったので、新しい通貨にリープフロッグ(蛙跳び)できた。先進国では、そうはいかない。(p. 205)


知っている限り、本書は、ブランチレスバンキングを取りあげた一般向けの書籍として本邦初のものです。書店のビジネス書コーナーに平積みにされている本の索引でブランチレスバンキングにお目にかかることができるとは、予期しておりませんでした。

開発途上国はおろか先進国の金融にも多大な影響をもたらしうる仮想通貨について、今後とも着目していきたいと思います。


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