CGAP「預金保険とデジタル金融包摂」

CGAPが公開しているBriefをご紹介いたします。


Deposit Insurance and Digital Financial Inclusion(PDFファイル)


デジタルファイナンスが金融包摂を前進させつつあるなかで、消費者保護のため、預金保険(deposit insurance)の対象を拡大させなければならないという問題提起がなされています。


デジタルに保存された価値(digitally stored value)の代表格は、通信キャリアが発行する電子マネーであり、以下のような従来の銀行預金と異なる特長を持っております(p. 2)。

  • 代理店の利用
  • 預金保険に加入している銀行と、加入していないノンバンク双方とのパートナーシップ
  • カストディアンが保管するプール口座とデジタルに保存された価値の管理


まだまだ議論が始まったばかりの新しい分野であり、今後の課題とされている論点は以下の通りです。

  • 顧客に対する啓発
  • カストディアンによる顧客のデジタル預金管理の改善
  • 金融機関が破綻から再建に至るまでの対応


日本をふくむ先進国ではモバイルマネーが法律や制度上どう保護されているのか、詳しく調べてみたいと思いました。

McKinsey「デジタルファイナンスがいかに新興経済の成長を促進できるか」

McKinsey Global Instituteが公開しているレポートをご紹介いたします。


How digital finance could boost growth in emerging economies(PDFファイル)


デジタルファイナンス潜在的な経済に対するインパクトを表したのが以下の図です(p. 9)。

16億人の個人が新たに包摂されることで、4.2兆ドルの預金と2.1兆ドルの貸出が新たに生まれ、2025年までに3.7兆ドルのGDPの成長をもたらすとのことです*1

この前提として、金融包摂は、貧困層のみならず、インフォーマルな金融を利用せざるえなかった大多数の中間層にもインパクトを与えるという見通しが描かれています(p. 12)。


83ページ以降は国ごとのデータが掲載されております。

下のナイジェリアにおける携帯電話の普及率を表した図(p. 95)など、様々なデータを閲覧できます。


内容に追いつけているわけではありませんが、マクロ経済分析の詳細(p. 103)や、元のデータの一覧(p. 116)も掲載されております。

*1:18ページと20ページには、これらの数字の内訳が掲載されています。

Orange、モバイルマネー事業のリスクとコンプライアンスを統括する部署CECOMを設置

フランスの通信事業者Orangeが、モバイルマネー事業に対するコントロールを担う部署を新設するそうです。


Orange accélère sur les services financiers mobiles en Afrique et se dote à Abidjan d’un centre de conformité mutualisé dédié à Orange Money, le Centre d’Expertise en Conformité Orange Money (CECOM)
http://www.orange.com/fr/Presse-et-medias/communiques-2016/Orange-accelere-sur-les-services-financiers-mobiles-en-Afrique-et-se-dote-a-Abidjan-d-un-centre-de-conformite-mutualise-dedie-a-Orange-Money-le-Centre-d-Expertise-en-Conformite-Orange-Money-CECOM


Orange se renforce dans le paiement en Afrique
http://www.lefigaro.fr/secteur/high-tech/2016/09/07/32001-20160907ARTFIG00191-orange-se-renforce-dans-le-paiement-en-afrique.php


Orange ouvre un centre d'expertise en conformité pour ses activités bancaires en Afrique
http://www.leparisien.fr/high-tech/orange-ouvre-un-centre-d-expertise-en-conformite-pour-ses-activites-bancaires-en-afrique-07-09-2016-6100971.php


Orange Money vise la microfinance et la micro-assurance
http://www.jeuneafrique.com/355624/economie/orange-money-vise-de-nouveaux-partenariats-microfinance-microassurance/


今回新設されるCECOMは、Centre d'expertise en conformité Orange Moneyの略で、無理やり日本語に移せば、「Orange Moneyコンプライアンス評価センター」という名称です。

コートジボワールアビジャンに15人のチームとして設置され、Orange Moneyの二線(second niveau)として、フロント部門を牽制する役割を担うとのことです。


本件の背景にあるのは、西アフリカ諸国中央銀行(BCEAO)やギネア共和国中央銀行(BCRG)が相次ぎ、電子マネー事業設立(EME: Établissement de Monnaie Électronique)認可の取得を事業者に奨励していることです。

通信事業者であるOrangeにとって、金融規制や銀行規制はまだ目新しい課題であり、今回のCECOMの設置は、EME認可を取得したセネガル・マリ・コートジボワール・ギネアで金融事業を運営していくための後方固めと位置づけることが可能でしょう。

これらの地域では、特にマネーロンダリングやテロ資金供与との関わりで、本人確認や取引の安全性確保に大きな問題があるとみなされています。


より長期的には、今後アフリカや中東など成長を見込める地域において、Orangeがモバイル金融事業を展開していくための重要な一歩と整理されています。

当面、決済や資金移動に専念し、与信や保険に自ら乗り出すつもりはないようですが、2018年に2億ユーロ以上の売上を達成することが目標として掲げられています。


Orange Moneyによる国際モバイル送金
http://d.hatena.ne.jp/branchlessbanking/20160703/1467553395

GSMA「国境を越えるモバイルマネー――西アフリカの新たな送金モデル」
http://d.hatena.ne.jp/branchlessbanking/20150412/1428830807

OrgngeとBNPパリバ、アフリカで口座の相互乗り入れを開始
http://d.hatena.ne.jp/branchlessbanking/20140622/1403420621

Afrimarket、1,000万ユーロの出資を受ける

フランス発のフィンテックAfrimarketが、1,000万ユーロの出資を受けたそうです。


La plate-forme Afrimarket lève 10 millions d'euros
http://business.lesechos.fr/entrepreneurs/financer-sa-creation/0211255282534-la-plate-forme-afrimarket-leve-10-millions-d-euros-213652.php

Afrimarket lève 10 millions d’euros pour étendre son modèle de marketplace en Afrique
http://www.frenchweb.fr/afrimarket-leve-10-millions-deuros-pour-etendre-son-modele-de-marketplace-en-afrique/254366


資金を提供したのは、イギリスの社会的投資ファンドであるGlobal Innovation Fundと、フランス開発庁の子会社で民間セクター向けの投資を手がけるProparcoです。


少し前には、ある特定の使途にひもづけられたお金を送る(cash to goods)サービスでありましたが、ここへきてビジネスモデルを国際送金からeコマースに変更しているようです。

コートジボワールのウェブサイトを見ると、食品や電化製品の販売や配達が主な事業になっていることを確認できます。


現状、eコマース事業が占める割合は売上の30%程度とのことですが、今回調達に成功した資金も、オンラインのプラットフォームを開発するために使用されるそうです。

流行からあえて遠ざかるという戦略なのか、フィンテックとは明確に異なる路線に向かっているようですね。


フランスのフィンテック「アフリマーケット」
http://d.hatena.ne.jp/branchlessbanking/20141214/1418540775

Afrimarket、Orangeから100万ユーロの出資を受ける
http://d.hatena.ne.jp/branchlessbanking/20150201/1422798473

BCG「貿易金融におけるデジタル革命」

ボストン・コンサルティング・グループによるレポートをご紹介いたします。


The Digital Revolution in Trade Finance(PDFファイル)


銀行が提供するクロスボーダーの貿易金融(trade finance)にデジタル技術を活用しようとするレポートです。

以前の記事でもご説明したとおり、貿易金融をふくむ銀行の外国為替(foreign exchange)業務は、紙ベースの大量の書類を事務員が目と勘で処理する労働集約的なものです。

人がおこなう事務処理を減らし、顧客に対しスピードの改善やコストの削減を提供するために、貿易金融の業務プロセスにおける以下の技術の導入が提唱されています。


OCR機械学習ブロックチェーン以外はかなり専門的で、一般にはあまり知られておりませんが、貿易決済の要素として重要なものです。


たまたま同時期に目を通した記事になりますが、ご興味を持たれた方には、アジア開銀によるまとめのご一読をお勧めいたします。

アジアの貿易金融を促進する――12の知るべきこと
https://www.adb.org/news/features/promoting-trade-finance-asia-12-things-know

ケニア中央銀行総裁「サブサハラアフリカの金融包摂」

アフリカ開発会議TICAD)におけるケニア中央銀行総裁のスピーチをご紹介いたします。


Patrick Njoroge: Financial inclusion in Sub-Saharan Africa(PDFファイル)


金融包摂の推進のため、考慮しなければならない点が大きく3つ挙げられています。

  • 費用削減と品質の両立
  • 過度の標準化による特定の技術への依存と、技術革新の阻害
  • 顧客保護上の問題


顧客保護上の問題として、具体的に以下が挙げられています。

  • 規制を受けない金融機関が保有する資金に対する保護手段がないこと
  • 費用や契約条件のディスクロージャーが適切になされないこと
  • 代理店の流動性が不十分であること
  • デジタルチャネルによる無責任な融資と代理店による不正
  • 資金へのアクセスを妨げるシステム障害
  • サイバー犯罪が増加するなかでのデータのプライバシー
  • デジタル金融サービスを通じて生成された膨大なデータの所有権とコントロール


後半の問題は、デジタルファイナンスやサイバー分野に特有のものであり、金融包摂の前進のために解決が必要ですね。


BFA「ベナンマイクロファイナンスにおける消費者保護」
http://d.hatena.ne.jp/branchlessbanking/20151115/1447593265

ACCION「デジタル金融サービスとマイクロファイナンス
http://d.hatena.ne.jp/branchlessbanking/20151018/1445173534

BNPパリバサブサハラアフリカにおけるファイナンシャルインクルージョン
http://d.hatena.ne.jp/branchlessbanking/20150104/1420381017

IIF「金融サービスのRegTech――コンプライアンスと報告の技術的ソリューション」

国際金融協会(IIF: Institute of International Finance)が公開しているレポートをご紹介いたします。


Regtech in financial services: Technology solutions for compliance and reporting(PDFファイル)


RegTechとは、「規制コンプライアンス要件に効果的かつ効率的に対応するための新たな技術の利用」(p. 2)を指します。

金融機関が規制対応に活用できる技術として想定されているのは、以下のものです(pp. 3-4)。


以下が、これらの技術の想定されている使途になります(pp. 11-14)。


詳しくは原文に当たっていただきたいのですが、当然、技術を活用するための課題や障壁も取り上げられています(pp. 18-23)。


規制でがんじがらめに縛られている一方で、金融業界は、その時々の新しい技術を柔軟に取り入れてきた歴史を持っております。

もちろん今のフィンテックと意味は異なりますが、financial technologyという言葉自体は何十年も前からあります。

流行語の例にもれず語感がいいので、「規制対応に技術を活用しましょう」という金融機関に対する提案に添えるフレーズとして、便利に使えそうです。


Accentureフィンテックと進化しつつある展望」
http://d.hatena.ne.jp/branchlessbanking/20160509/1462720171