レポート「ブランチレスバンキングの早期経験」

(11月13日追記:本文の構成だけでなく、付表も訳出しました。「世界各地のブランチレスバンキング一覧」)


現在のところ、ブランチレスバンキングに関する情報で、日本語で書かれたものはほとんどありません。


以前の記事Wikipediaの英語版を翻訳させていただきましたが、ブランチレスバンキングが日本で知名度をあげていくためには、日本語による紹介がもっと必要です。


そこで今回は、ブランチレスバンキングに関する秀逸なレポートを紹介させていただこうと思います。CGAPによるもので、「ブランチレスバンキングの早期経験」と題されています*1。様々な話題がとりあげられており、ブランチレスバンキングを取りまく状況を一望することができます。


以下、文章の構成を翻訳したものをご覧いただければ、ブランチレスバンキングというものがどういうものなのか、あらましをつかむことができると思います。原文に当たるときの手がかりとしてもお使いいただけるはずです。


第一回の研究会で提案いただいたように、こういったよく書けている文章を題材として、皆で読みあわせをするのもいいでしょうね。


「ブランチレスバンキングの早期経験(The Early Experience with Branchless Banking)」
ゴータム・イバチュリー(Gautam Ivatury)、イグナシオ・マス(Ignacio Mas)
2008年4月

現状報告
(1)ブランチレスバンキングは、貧しい人々に金融サービスを届けるためのコストを劇的に下げることができる
(2)ブランチレスバンキングの経路は、貯蓄や融資にではなく、主に支払いに用いられる
(3)少数の貧しい人々や銀行と縁のなかった人々が、金融サービスを受けるためにブランチレスバンキングを利用しはじめている
(4)金融事業者は、代理店のネットワークをビジネス戦略上の鍵ととらえている
(5)市場の範囲を広げようとするほとんどのモバイルバンキング事業は、携帯電話事業者によって先導されている
(6)モバイルバンキングの事業者は、使い勝手をそこなう多機能性よりも、とっつきやすさや使いやすさを重視している
(7)マイクロファイナンス実施機関(MFI: Microfinance Institution)は大きく出遅れている


ブランチレスバンキングの鍵となることがら
(1)ブランチレスバンキング、とくにモバイルバンキングは、人間味を置きかえうるか?
(2)事業者は、信頼性と利便性のバランスをとることができるか?
(3)各国の政府は、実践的かつリスクにもとづいた顧客情報把握のアプローチを構想できるか?
(4)相互運用性(interoperability)は利用をふやすか?


予言
(1)貧しい人々は、お金持ちよりもモバイルバンキングを使用するようになる
(2)事業者は、代理店を利用するうえでの事業遂行上のリスクを管理し、顧客は流動性の少なさを許容するようになる
(3)相互に乗りいれする代理店のネットワークが、ブランチレスバンキングを通じて金融へのアクセスを大幅に広げるための鍵となる
(4)競争的な市場への参入の結果として、現在のところ金融サービスの恩恵に預かっていない大多数の人々は、3年程度で、モバイルバンキングを使用するようになる


図表
表1 WIZZITのユーザーが預金処理や決済処理を行なう手段。月ごとの数値(p.3)
表2 各国における携帯電話と銀行口座の浸透度(p.8)
付録 ブランチレスバンキング事業のいくつかの例(p.15)

*1:このレポートは、マイクロファイナンスに関する先行研究でも取りあげられています(『よくわかるマイクロファイナンス』pp.197-199)