CPMI・世銀「ファイナンシャルインクルージョンの決済面」

CPMI(決済・市場インフラ委員会)と世銀がこの9月に公開した諮問文書をご紹介いたします*1


Payment aspects of financial inclusion(PDFファイル)


長くはあるものの、決済(payment)という側面からファイナンシャルインクルージョンを包括的に論じる文献として、とても興味深く読むことができます。


ファイナンシャルインクルージョンに関する議論のなかで、モバイルペイメントなど特定の側面のみが強調されてきたという反省のもと、決済をより全体的な視点からとらえなおそうとする試みです。

ここでいう決済とは、個人・法人・政府などさまざまなアクターが1件1件の経済行動を完了させるために必要な手続きであり、金銭の授受や価値の保存といったその中心的な機能を果たす現金を代替するインフラとして、銀行やその他の金融機関が維持する預金取引口座(deposit transaction accounts)が重要視されています(p, 5)。

取引口座の普及や使用を通じたファイナンシャルインクルージョンの拡充が一国の国家決済システム(NPS: national payments system)の効率化をうながすことなど、特定の企業や金融機関のケーススタディではなく、決済の近代化が持つ経済全体へのインパクトを視野に入れているところに本文書のオリジナリティがあるといえるでしょう(p. 6)。



決済の中核たる取引口座をあまねく普及させていくための見取り図として、上の図が掲載されております(p. 22)。

法規制の枠組みと金融・情報インフラの土台のうえに、プロダクトデザイン・アクセスポイント・金融リテラシーなどの柱が据えられていますね。

大量の反復する支払い(large-volume recurrent payment)として想定されているのは、政府から個人(年金や給付金)、個人から政府(公共料金)、雇用者から被雇用者(給料)といった資金のフローです(pp. 47-53)。

移民による国際送金という技術的にも経済的にも政治的にも非常にホットなトピックもこのカテゴリーに入れられております。



上の図は、決済の処理のために金融機関が共同で利用する巨大なシステムの概略を描いたものです(p. 32)。

個々の銀行の勘定系システムにおける処理が、顧客の信用情報や本人確認のシステムと連携し、インターバンクで大規模に決済(settlement)されていく流れを追うことができます。

経済の血液たる金融のバックヤードを支える一国の決済システムの運用のうえで、中央銀行が果たすべき役割も描かれております(p. 21)。


政府や金融機関やその他の民間企業がファイナンシャルインクルージョンの増進という目標を共有するためのKPI(key performance indicatior)が用意されているうえ(p. 60)、KPI管理のためのデータをどこからどうやって取ってくるかという検討までなされており(pp. 61-63)、きわめて行き届いた内容という印象を持ちました。