世界銀行・IFC「世界金融開発報告書2014年版 ファイナンシャルインクルージョン」

世界銀行とIFCによるファイナンシャルインクルージョンに関するレポートを紹介させていただきます*1


Global Financial Development Report 2014: Financial Inclusion(PDFファイル、3.7MB)


224ページからなるレポートで、ファイナンシャルインクルージョンを包括的に解説する序章のあと、2章と3章では、個人(individuals)と法人(firms)に対するファイナンシャルインクルージョンの効果がそれぞれ論じられています。


全体を通じ、モバイルペイメント・モバイルバンキング・生体認証(biometric identification)・顧客の信用情報を管理するための電子システムといった新たな技術の重要性が強調されていることが特徴的です。

まず2章では、政府から個人への支払い(Gorvenment to Person Payments)や送金が詳述され、とりわけ個人への効果という観点からこれらの技術のポテンシャルが高く評価されています。

ブランチレスバンキングの重要な要素である銀行代理店(banking correspondent)に言及がなされるのもこの観点からであり、郵便局・スーパーマーケット・食料雑貨店・ガソリンスタンド・宝くじ店などの新たな経路とモバイル技術が組みあわさることで、銀行による顧客へのサービス提供の範囲が大きく広がることが指摘されています(p. 58)。


続く3章では、ファイナンシャルインクルージョンの増進は金融セクターの改善によってなされるという認識のもと、中小企業(SMEs)を中心とする法人に対する金融サービスの拡充とそのマクロな影響が論じられていきます。

預金やマイクロファイナンスを筆頭に、決済サービス・ファクタリング・リース・プライベートエクイティなど金融商品ごとに、企業のオペレーションへ期待されうる効果がのべられています。

さらに、動産担保と登記所・信用照会機関・破産のさいの当局の対応・ベンチャー企業への助成など、貧困削減をはじめとする開発上の課題というよりは、新興国における金融システムの整備や金融市場の育成にかかわるトピックに焦点が当てられているようですね。


ファイナンシャルインクルージョンを推進する政府に対する提言も随所にみられ、効果的な政策を立案するうえで、このような法的枠組みの確立のほか、金融教育と新たなファイナンス手法の促進が有望であるとする見解がしめされています(p. 5)。

金融へのアクセスを妨げるジェンダー格差やイスラム金融といった話題への言及もあり、151ページ以降の充実した資料をふくめ、こうした分野に関心を持たれる方には必読の文献のひとつとなることでしょう。

*1:このレポートは、世銀の日本語のウェブサイトでも取りあげれています。金融サービスへのアクセスに向けたロードマップを提示−世界銀行グループ報告書