ファイナンシャルインクルージョン――ブランチレスバンキングの政策的側面

ブランチレスバンキングやマイクロファイナンスは、貧困層への金融サービスの提供によって、ひとつの国や地域全体の開発・発展(development)を下支えしていく事業です。

今回は、ブランチレスバンキングが持つこのようなマクロな効果をよく表わしているファイナンシャルインクルージョン(financial inclusion:金融への受けいれ)という考え方を紹介させていただきます。


まず考えていただきたいのが、この語の対極にある概念はファイナンシャルエクスクルージョン(financial exclusion)で、「金融への締めだし」「金融からの排斥」を意味するものであるということです。

多くの開発途上国において、金融機関から顧客とみなされない貧しい人々が数多く存在すること、そうした人々はタンス貯金や知人からの借りいれといったインフォーマルな金融に頼らざるをえないことを想起してみてください。


ところが、こうした状況は、携帯電話やATMや代理店(agent)を使って送金や貯金をすること(ブランチレスバンキング)や、農村を訪れる職員からグループ単位で融資を受けること(マイクロファイナンス)により、抜本的に変わりつつあります。

それまでは締めだされてきた人々を積極的に受けいれようとするところにファイナンシャルインクルージョンの趣旨があり、このようないきさつを踏まえこの語を日本語に訳すと、「金融への受けいれ」といったところでしょう*1


さて、ファイナンシャルインクルージョンは、それまでは金融サービスを受けられなかった人々(the unbanked)がフォーマルな金融を利用できるようになることはもちろん、そのことが国全体の発展にもたらす政策的な意義をも強調する概念です。

国際通貨研究所の福田幸正主任研究員がお書きになったレポート*2は、この点を的確にとらえています。

 貧困削減の手段としてfinancial inclusionを推進するにあたり、当該国政府はまず国の成長・開発戦略の重要課題としてfinancial inclusionを位置付ける必要がある。すなわち、financial inclusionとは、金融サービスという基礎インフラから疎外されてきた貧困層を国民として取り込むという正に国づくりのプロセスそのものであり、他の8つの原則の土台と云うべきものである。したがって、政府のトップの強いコミットメントとリーダーシップが求められる最重要事項である。(p. 9)

以前の記事で紹介したように、モバイルバンキングやブランチレスバンキングがダボス会議G20で大きく取りあげられたのは、最新の技術を駆使して金融セクターを整備することに対するこうした認識と期待があるからです。

ファイナンシャルインクルージョンという考え方を意識することによって、ブランチレスバンキングが政策という観点からも重要な事業であることをご理解いただけると思います。

*1:他の訳語としては、「金融への取りこみ」「金融への迎えいれ」などが考えられます。「金融包摂」という言葉が使われることも多いようです。ここでは、日本語としてのわかりやすさを重視し、この訳語を採用しました。

*2:Financial Inclusion(金融包摂)〜最近のG20を中心とした動向〜(PDF)」